異論が起こったときには、道理によってよく説き伏せて
(『大パリニッバーナ経』)


 そこで悪魔・悪しき者は、若き人アーナンダが去ってまもなく、尊師に近づいて、一方に立った。一方に立った悪魔・悪しき者は、尊師にこのように言った。───
 「尊い方よ。尊師はいまニルヴァーナにお入り下さい。幸いな方(=ブッダ)はいまニルヴァーナにお入りください。今こそ尊師のお亡くなりになるべき時です。尊師はかつてこのことばを仰せられました。
 『悪しき者よ。わが修行僧であるわが弟子どもが、賢明にして、よく身をととのえ、ことがらを確かに知っていて、学識があり、法をたもち、法に従って行ない、正しい実践をなし、適切な行ないをなし、みずから知ったことおよび師から教えられたことをたもって、解説し、説明し、知らしめ、確立し、開明し、分析し、闡明(せんめい)し、異論が起こったときには、道理によってそれをよく説き伏せて、教えを反駁し得ないものとして説くようにならないならば、その間は、わたしはニルヴァーナに入りはしないであろう』と。

 ところが今や尊師の修行僧ら、弟子どもは賢明にして、よく身をととのえ、ことがらを確かに知っていて、学識があり、法をたもち、法に従って行ない、正しい実践をなし、適切な行ないをなし、みずから知ったことおよび師から教えられたことをたもって、解説し、説明し、知らしめ、確立し、開明し、分析し、闡明し、異論が起こったときには、道理によってそれをよく説き伏せて、教えを反駁し得ないものとして説いています。尊い方よ。尊師は今こそニルヴァーナにお入りください。幸いな方はニルヴァーナにお入りください。今こそ尊師がお亡くなりになるべき時です。
 尊い方よ。尊師はこのように言われました。───
 ……悪しき者よ。弟子であるわが修行尼たちは、……
 ……わが弟子である在俗信者たちは、……
 ……わが弟子である在俗信女たちは、賢明にして、よく身をととのえ、ことがらを確かに知っていて、学識があり、法をたもち、法に従って行ない、正しい実践をなし、適切な行ないをなし、みずから知ったことおよび師から教えられたことをたもって、解説し、説明し、知らしめ、確立し、開明し、分析し、闡明し、異論が起こったときには、道理によってそれをよく説き伏せて、教えを反駁し得ないものとして説いて
います。尊い方よ。今こそ尊師はニルヴァーナにお入りください。幸いな方はニルヴァーナにお入りください。今こそ尊師がお亡くなりになるべき時です。
 尊い方よ。また実に尊師はこのことばを仰せられました。『悪しき者よ。わがこの清浄行が成就され、栄え、増大し、ひろがり、多くの人々に知られ、ゆきわたり、ついに神々や人々によく説き明かされないであろう間は、わたしはニルヴァーナに入らないであろう』と。しかるに、尊い方よ。今や尊師の清浄行は成就され、栄え、増大し、ひろがり、多くの人々に知られ、ゆきわたり、ついに人々のためによく説き明かされています。今こそ尊師はニルヴァーナにお入りください。幸いな方はニルヴァーナにお入りください。今こそ尊師がお亡くなりになるべき時です
」と。

 このように言われたので、尊師は悪魔に次のように言われた、「悪しき者よ。汝は心あせるな。久しからずして修行完成者のニルヴァーナが起るであろう。いまから三ヶ月過ぎて後に修行完成者は亡くなるであろう」と。

(『大パリニッバーナ経』第三章第七 〜 九詩、中村元訳『ブッダ最後の旅』(岩波文庫)、岩波書店、1980年、pp. 69-71)

この書籍をお求めの方はこちらから
ブッダ最後の旅


トップページ >  資料集 >  [001-020] >  006. 異論が起こったときには、道理によってよく説き伏せて(『大パリニッバーナ経』)

NOTHING TO YOU
http://fallibilism.web.fc2.com/
inserted by FC2 system