自分たち自身の知性を使え(カール・ポパー)


科学は、あらゆる人間の努力のなかで、あのもっとも人間的な努力──自己解放──の直接の結果である。科学は、この世界とわれわれ自身をよりはっきりと洞察し、大人として責任をもち、啓発された存在として行為しようとする努力のひとつなのである。カントはこう書いている。「啓蒙とは、みずから課した保護の状態から人を解放することである……外からの案内なしには、自分自身の知性を使うことができないという無能力の状態からの解放である。わたくしが『みずから課した』保護の状態と呼ぶのは、それが知性の欠如によるのではなく、勇気ないしは決意が欠けているために、自分自身の知性を使わずに指導者に頼っている状態のことである。あえて賢かれ〔Sapere aude!〕、自分自身の知性をあえて使え。これが啓蒙の標語である(6)。」
 カントは、指導者や権威に頼るのではなくて、自分たち自身の知性を使えとわれわれに迫っている。これは、科学の専門家でさえ、あるいは()()()()()()でさえ、指導者と見ることを拒否せよと要求しているのだと理解すべきである。科学には権威はない。それは所与、データ、観察から魔法によってうみ出されたものではない。それは真理の福音ではない。それは、われわれ自身の努力と誤りの結果である。できるかぎり科学をよくするのは、あなたであり、わたくしである。そして、それに対して責任を負うのも、あなたであり、わたくしである。

(カール・R・ポパー『実在論と科学の目的(下)』〔小河原誠・蔭山泰之・篠崎研二訳〕、岩波書店、2002年、pp. 60-61)

この書籍をお求めの方はこちらから
実在論と科学の目的 下


〔02.08.04 引用者付記〕
 註は引用を省略いたしました。


トップページ >  資料集 >  [101-120] >  118. 自分たち自身の知性を使え(カール・ポパー)

NOTHING TO YOU
http://fallibilism.web.fc2.com/
inserted by FC2 system