宗門の学は、法華経に対する信心の欠落の状態にある(伊藤瑞叡)


 とにかく法華経は、犬儒学派の精神にしてやられています。それに対して、日蓮宗の私どもは、彼等の精神に対抗するだけの理念とか、学問的に高潔な精神とか、そして態度とか批判力を堅持し得ないでいる。なかには、自分も犬儒学派になってしまっている。そして彼等の学説に対して、対抗するどころか、我々はそういう学説に対して、折伏立行の精神なんか全然なくて、それに対応できないでいる、いな受け売りしているというのが現状であります。
 したがって、宗門の学は、法華経に対する信心の欠落の状態にあるのかも知れません。

(伊藤瑞叡『日蓮精神の現代』、大蔵出版、1989年、p. 67)


 で、高級なものを見ると、あるいは人々が賛嘆しているものを見ると、なんとかして低級な物へ通俗なレベルへと引き下げて、駄目にしてしまわなければ安心できないような、そういう受動的で退行的な態度の学問が学問的態度で、それが批判的なんだ、クリティークなんだ、学問的クリティークなんだという誤解が、戦後の日本の諸学の中には、私はあるように思います。
 法華経は、日本人の仏教文化や宗教生活などの上に、おそらくは文字通りの甚大な影響力を持つものであります。したがって法華の学が、つまるところ法華経に対して営々と積み重ねられてきた伝統的な解釈の持つ意味とか、そういうものを充分に配慮し検考することなく、過去の英知を一切無視するような一犬儒的で恣意的な学問となりはて、そうしてそういう学問の軽率な概括によって導き出された誤謬に充ちた見解が、実際に世の中の常識になりつつあるとしたら、これは大変なことです。ある大学の仏教青年会では、法華経というのは、渡辺説が法華経のすべてであると思っていた時期があるくらいであります。ですから、そういう学者を相手にケンカしても仕様がないというふうに、言論は無力だ、仕方がないというふうに全く状況にまかせようというのは、敗北主義でして、それは私は、日蓮聖人の精神ではないし、本化の学徒の態度ではないと思います。時には共存のため妥協も必要ではありましょうが、このままでは、まちがった法華経の考え方がいつの間にか一般的知識層の法華経に対する知識になってしまいますから、やはり私どもは、批判すべきものは批判しておかないといけないのではないかと思います。はらを決めるべきです。しっかりとした批判をなし、それを宗門が書物として出さなければなりません。檀信徒を相手に教養的で心情的な妥協の産物としての書物を出すことも、ときには大事であるかも知れませんが、一般的知識層が読んでいる書物において間違った法華経観が流布されている場合がありますので、速やかに察知して、それを解明する書物を出すような見識と活力と行動力のある宗門となることも、大事ではないかと思います。宗門は単なる実存仏教やパフォーマンス仏教、サークル仏教になり下がってはいけません。「日蓮が一門」となり通す、そういう人格法器を育成することのできる学的な態度を堅持すべきです。

(同上、pp. 68-70)


 また先ほど小野先生が、宗門の過去から現在に至り、現在から未来に至る永遠なる問題にして重要なる問題で、しかも最も困難な問題を指摘されましたけれども、先師を取るか宗祖を取るか。自分の内的良心のなかで、これを真剣に考えるだけでも、宗門が甦えってくるのではないかと私は思っています。この先師を取るか宗祖を取るかという問題は、はっきり言えば、日和見的な現代の体制的な教団のままで行くのか、あるいは宗祖を取って一歩でも改革し自分を前進させるのかということであります。私どもは、そうしたジレンマの中で、生きているわけですけれど、少なくともそういう問題を自分の問題として考えるだけでも、宗門は多少なりと蘇生する方向へむかうことになるのではないかと思います。
 かつて、あの封建制度の中では、天台づりの学問をして、日蓮宗本来の布教は出来ませんでしたけれども、しかし、その時代の先師も、学問的には書物をもって対論をしております。それは限られた条件の中でやっているわけであります。今は自由な時代ですのに、他宗との間に議論をしていない。学問においてしかりであります。自由な時代において滅び、弾圧の中において活き活きと生きたということはどういうことなのか。そういう点で私は、やはり続種護法の精神を、寺に生れて育った子弟に教育することが欠けているのではないかと思います。

(同上、pp. 311)

この書籍をお求めの方はこちらから
日蓮精神の現代


トップページ >  資料集 >  [001-020] >  010. 宗門の学は、法華経に対する信心の欠落の状態にある(伊藤瑞叡)

NOTHING TO YOU
http://fallibilism.web.fc2.com/
inserted by FC2 system